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株式会社 三洋

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素材の基礎知識
2022/08/22

本革について

三洋からのお知らせ

皮と革の違い



 「皮」は文字通り動物の皮で、人間にもある皮膚のこと。外側の「がわ」を由来とする説もあり、
一番外側の膜のことを指している。それに対し、カバンやクツの材料として使用するのは「革」。
動物の皮を使用可能な素材へと鞣し加工したものが革と呼ばれる。


この「革」という文字は、牛などの動物の皮を開いた状態を模した象形文字で、ピンと張った状態に
作り変えるという意味を持つことから、あらためるなどとも読まれ、「革命」、「改革」等の熟語に
用いられる。


また古くから革を使用している製品名の漢字には、部首として「革」が使われており、我々の生活に
深く浸透している素材である。
鞄(かばん)・靴(くつ)・鞠(まり)・鞭(むち)・鞍(くら) 等々


皮は動物の一部なので、例えば食肉用の牛や豚から剥いだ後、放置しておけば腐ってしまう。そして
腐らないようにそのまま乾燥させても、固くて使い物にならない代物である。そこで、柔軟性を持た
せる加工と防腐処理を施し、「皮」を「革」へと作り変える「鞣し(なめし)」と呼ばれる工程を
人間は生み出した。本来は捨てられるものを生活の一部に取り込んだ先人たちの知恵の結集といえる。





本革のメリット・デメリット

 メリット  デメリット
 1、高級感や美しさ、触れた感触の良さ  1、個体差が大きい
 2、吸湿性と放湿性がある  2、水や汗に弱い
 3、丈夫で長持ちする  3、染色堅牢度が低い(仕上げ方法による)
 4、切り口がほころびにくい  4、定期的な手入れが必要
 5、難燃性と耐熱性がある  5、合成皮革と比べると重たい


メリットにおいて、丁寧な加工、丹念に仕上げられた革は、見ているだけでウットリする不思議な魅力
がある。これは製品価値に直結し、大変重要な要素である。


デメリットの大きな要素は、水濡れ、カビ、アルカリ等、外的要因による性質の変化である。これは
天然素材ゆえの宿命といえるが、この変化することが生きた素材の証であり、手入れの手間が必要で
ある。むしろこの手間が、革製品への愛着を生んでおり、革においては変化=劣化とは言い切れない。
一例を挙げると、革製品にあえて太陽光(紫外線)を当て、表面をあめ色にエージング(経年変化)
させた魅力を好む人が多くいる。


また自然素材であるがゆえに、素材の大きさは同じものがなく、同じ製造方法でも1枚毎に風合いが
異なり、さらに1枚の中の場所によっても性質が異なる。製品化する際の色合わせやパーツ取り
(裁断・抜き加工)は熟練の技術を要し、合成皮革と比較して、歩留まりの悪いことが本革製品が
高価になる要因でもある。





革の原料となる動物


 革の主成分は、脊椎動物が豊富に持つたんぱく質の一種「コラーゲン」である。そのため、主に脊椎
動物の皮が原料となる。つまり脊椎動物であれば、魚・両生類も革に加工でき、コラーゲンを含む部位
も鞣すことが可能である。


流通している革の中で、一番多いものは牛で、その後に馬、豚、鹿、羊等が続く。
牛が一番多い理由は、肢体が大きく、面積が大きい革が採れ、厚みや丈夫さも充分、という素材として
の評価だけでなく、食肉として消費される頭数、つまり原皮の流通量が多い=手に入りやすい=価格が
こなれている、という点である。


また、革のジャンルとしては「一般的な革」と「エキゾチックレザー」がある。
エキゾチックレザーは、主に希少動物の特殊な革の名称で、爬虫類、魚類、鳥類等が原料となる。


一般的な革
 世界中で家畜として飼育され、食肉として消費されている動物を原皮とする、最も一般的な革。
流通量が多いため、加工や仕上げ等の手法がいくつも確立され、多くのバリエーションが存在する。


①牛:世界的に最も流通量が多く、一般的な革。丈夫で厚みがあり、大きな革が取れやすい。
   牛の年齢、去勢の有無や性別により、「ステアハイド」「カーフスキン」「ブルハイド」等呼び名
   が変わり、革の性質も変化する。原皮は輸入品がほとんどだが、国内原皮(地生・ヂナマ)もある。


②豚:唯一、原皮を完全国内供給している革。日本の豚革の評価は高く、国外への輸出も多い。
   軽くて摩擦に強く、比較的安価なので裏地に多用される。表面に3つ一塊で並んだ毛穴の模様が、
   独特の表情を持つ。


③馬:コラーゲン組織は牛よりもキメが粗いが、柔らかな質感の革となる。一部の馬の尻から採れる
   「コードバン」は、繊維の緻密さや美しさ、そして希少性から高級革の代名詞である。


④鹿:繊維が細かく、丈夫さとしなやかさ、柔らかさを持つ。肌触りも良く、衣料品に多く使われる。
   オス鹿からとったバックスキンは傷が多いことがあり、銀面を削ってセーム革として使われたり、
   伝統工芸品の印伝革として用いられる。


⑤羊:仔羊は「ラム」、大人羊は「シープ」と呼ばれ、さらに毛がカールした「ウールシープ」と
   直毛の「ヘアーシープ」に分かれる。


⑥山羊:「ゴート」と呼ばれ、羊革よりもコラーゲン繊維の密度が高く、丈夫でしなやかである。
     仔山羊の革は「キッド」と呼ばれ、きめ細やかで透明感がある。


エキゾチックレザー
 一般的な動物以外の希少動物の革を「エキゾチックレザー」と総称する。独特なテクスチャーや希少性、
ワイルドな質感が好まれ、高級品等に使われる。性質も特殊なものが多く、取り扱いや加工、仕上げに
はノウハウが必要。

サメ、エイ、トカゲ、ワニ、ヘビ、ダチョウ、カバ、ゾウ 等





革の単位と価格


 元となる動物の皮の大きさによるが、国内市場の革は半裁(一頭分の半分)単位で取引されることが
一般的である。1枚といえば、半裁1枚のことを指す。ただし、ゴートやシープなど体の小さい動物の革は
裁断されていない「丸革」と呼ばれる状態で取引され、輸入革においては背割りされていないことがある。


革は単位面積当たりに単価が付けられ、その単位は「DS(デシ)」である。1DSは10cm×10cm、
100cm2となる。海外ではメートル法のDSではなく、ヤード・ポンド法の
「sq.ft(スクウェア・フィート)」が用いられる。1sq.ft≒9.29DS。


注意するべき点は、革が正方形でなくても「総面積÷100cm2」でDSを求めることである。半裁革の場合、
ベリーやネック等端の使えない部分の面積も含まれる。小売りでは半裁から必要量もしくは綺麗な形に
カットされた「切り革」の状態で販売されることが多く、この場合カット賃が含まれるだけでなく、
使える革面積が多くなる(販売店には使えない部分が残る)ので価格は割高となる。例えば、半裁1万円
革の丁度半分の面積を買ったとしても、大抵は5千円で購入とはならない。





原皮について


 革の元となる皮は、原料皮あるいは原皮(げんぴ)と言う。英語では「ハイド」であるが、豚、山羊、
羊等の小型動物の皮は「スキン」と呼ぶ。特に、牛や馬の原皮は年齢によって大きさや重さが変わるので
一般的に25ポンド(約11Kg)を境に、重い皮をハイド、軽い皮をスキンと区別する。


日本で鞣される牛の原皮は、アメリカを中心とした諸外国から輸入したものである。牛革の国内生産量は
年間約4,000万枚であるが、国内牛での生産量は約1,000万枚と1/4程度。輸入原皮が多い背景は、外国産
原皮の方が厚みや大きさがあって革素材として適していることに加えて、日米の食肉消費量の違い等の
要因がある。その他、馬の原皮はフランスやアルゼンチン、羊の原皮はオーストラリアやエチオピア、
山羊の原皮は中国、鹿の原皮はニュージーランド 等様々な国から輸入されている。


ほとんどが輸入原皮に頼っている中、豚の原皮だけは100%を国産で供給している。豚原皮の国内生産量は
年間約1,500万枚。そのうちの半数以上がアジア圏へ輸出されている。


食用家畜は食肉加工場で解体され、食肉、骨、筋、血液、内蔵、毛、そして皮等様々な部位に分けられる。
この食肉以外の部分が副産物にあたり、副産物の中でも革へ加工できる皮は明確な需要があることから、
重要視されている。ちなみに、骨は工芸品の材料や骨粉等に、筋は食用やゼラチンの材料に、血液は医療
品や飼料・肥料に、内蔵は食用や医療品、工業製品に、毛は筆やブラシ等にそれぞれ利用されている。
このように、食肉加工によって生じる廃棄物を捨てることなく徹底的に再利用する、資源の循環は既に
実施されているのである。





革の鞣しについて


 鞣しとは動物皮の繊維構造を保持したまま、化学的、物理的操作によって種々の鞣剤を用いて
コラーゲン繊維を不可逆的に安定化させることである。革の鞣しでは素材として使えるように様々な
加工を施すが、主な目的は「革を柔らかくすること」と「腐朽を防ぐための耐朽性の付与」である。


皮を鞣すことなく乾燥させると、コラーゲン繊維同士が固着したままで、ガチガチに固まった生皮にな
る。和太鼓に張られている黄色がかった革は生皮で、このコラーゲン繊維の隙間に適度な空間を持たせ、
しなやかに曲がる革に仕上げるのが、鞣しの目的である。


革を柔らかくするため、物理的に衝撃を与えたり、特殊な薬品を用いたりと、古代から様々な方法が
世界各地で実施されてきた。イヌイットの歯で噛んで鞣す方法やインディアンが行っていた動物の脳漿
を鞣し剤として使う「脳漿鞣し」が有名である。また鞣した後に煙で燻して耐朽性を持たせる手法は、
日本の伝統的な鹿革である「印伝革」に用いられている。革の繊維が適度に緩んだ状態で安定させる
ために、鞣し剤はアルミニウム、油、ミョウバン等様々なものが使われてきた。


現在、コストや機能性の問題で、「植物性タンニン」もしくは金属化合物である「クロム」を鞣し剤と
して使う、「タンニン鞣し」と「クロム鞣し」に大別される。これらは鞣し作業の工程が異なり、完成
した革の性質も異なるが、昨今では「クロム鞣し」の後に、タンニンを適度に加える「コンビネーショ
ン鞣し」という手法がとられることがある。クロム鞣しの耐久性やしなやかさをベースに、可塑性や
天然素材らしいナチュラルな質感といったタンニン鞣しの特徴を加味することができる。


タンニン鞣し
 植物に含まれる「タンニン」を抽出して使用する、古くから行われている伝統的な手法。
タンニン成分がコラーゲン成分と結合することで組織が安定し、柔軟性のある革となる。
タンニンとは「渋」で、渋柿等を渋くする成分そのものである。日本では古くから防腐・防虫効果の
ある塗料として使われる。また緑茶や赤ワインに渋みを加えているポリフェノールもタンニンの一種で
ある。


渋柿やワインの渋味成分はタンニンが持つ「収斂(しゅうれん)作用」により、粘膜のタンパク質を
わずかに変質させ、動物皮のコラーゲン繊維をギュッと収縮させる力が働く。この収斂作用により、
繊維が丈夫に引き締まり、革としては比較的張りやコシがある固めの仕上がりとなる。


主な特徴として、可塑性により使い手の体の形に沿うように変形することやタンニンの発色や日焼けに
よる色の変化から、経年変化が起こる。「革を育てる」という表現は、主にタンニン鞣し革に対して
使われる。コバ(革の切り口)を磨くと、タンニン作用により繊維がまとまり、表面が滑らかとなり
美しい光沢が出る。


多くのタンニンを革の内部まで十分に浸透させれば、それだけしっかりと鞣された状態となるが、
タンニンは浸透しにくい性質があって濃度の異なる鞣し液を別の槽(ピット)に分けて準備し、濃度の
薄い方から濃い方へ順に付け込む必要がある。これは「ピット鞣し」と呼ばれる非常に手間と時間がか
かる手法で、出荷されるまでの全工程で数ヶ月かかってしまう。これを解消すべく、タンニン鞣し剤を
ドラムに投入し、革にタンニンを叩き込むことで比較的短期間で鞣す「ドラム鞣し」が開発されている。
天然のタンニン鞣し剤で丁寧に作られる革は、安全性と高い品質をもっていることから、近年の風潮も
あって、再評価されている。


特徴:①張りとコシがある
   ②可塑性がある
   ③水分を吸収しやすい
   ④経年変化がある
   ⑤鞣しに手間がかかる


クロム鞣し
 19世紀に開発された技術で、クロム化合物を鞣し剤として使用する方法。世界で流通する革の約8割が
クロム鞣し革で、我々が普段目にする鞄、靴、衣料品等の革製品はほぼクロム鞣し革といえる。クロム
鞣し剤は工業薬品等を専門で製造する業者から手に入れるが、国産の鞣し剤はほぼ手に入らず、輸入品が
主となる。


ドラムまたはタイコと呼ばれる大きな回転体の中で、クロム鞣し剤等の薬品と共に革を攪拌し、まとめて
鞣す「ドラム鞣し」を使用する。前述したタンニン鞣しと比較すると、数時間から1日程度で鞣し工程が
完了するため、より効率的に大量の革を製造することが可能となる。また顔料仕上げ等革の不均一性を
減らす加工と組み合わせることができるので、歩留まりが良くなり、価格面でも優位性を持つ。


クロムはコラーゲン繊維の組織が潰れないように支える形で結合(架橋結合)し、ふんわりと軽く、
伸縮性に優れた革に仕上がる。そのため加工性が良く、衣料品や鞄類との相性が良いだけでなく、
柔らかさや手触りの良さを活かしたいシーンにおいてクロム鞣し革が採用される。


また、素材としての粘り(弾性)があるので、同じ厚みのタンニン鞣し革と比較すると、引っ張り強度・
引き裂き強度・折り曲げに対する耐久性が高い。より薄く漉いた状態でも丈夫な素材として使うことが
でき、製品の軽量化に向いている。また、耐熱性も高い。


鞣し直後で仕上げ加工を施していないクロム鞣し革は、クロム化合物の影響で青みがかかった白色と
なり、この状態はウェットブルーと呼ばれる。地色が白に近いため発色が良く、明るい色も表現し
やすい。また後加工による質感表現がしやすい。


特徴:①しなやかで軽く、伸縮性がある
   ②弾性と耐熱性がある
   ③生産性が高く、量産品に向いている
   ④発色が良い
   ⑤金属物質が含まれる





革の仕上げのバリエーション


 鞣した革には、製品に合う色や質感を付与する仕上げ加工が施される。この仕上げや染色方法には様々
な種類があり、「原皮の種類×鞣し方法×仕上げ」の組み合わせから無数のバリエーションの革を生み出す
ことができる。仕上げ加工は鞣しの最終段階でタンナー(鞣し加工業者)もしくは専門の仕上げ業者に
施される。大抵は特定地域にタンナーや仕上げ業者が集まっていて、東京都の墨田区、兵庫県の姫路市等
が有名である。


仕上げの一例
着色   :染料、顔料、アニリン
表面仕上げ:グレージング(摩擦)、アイロン、オイル、ガラス張り、エナメル、クラッキング、揉み、
      アドバン、シュリンク、空打ち・バタ振り、型押し(エンボス)、パンチング、プリント
起毛加工 :スエード、ヌバック、ベロア、バックスキン
その他  :素上げ、床革、生皮





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当社は75年超の樹脂素材調達+加工ノウハウを、
グループ会社である株式会社エヌ・コバヤシは40年超の天然皮革素材調達+加工ノウハウを持って
おります。

コロナ禍や紛争によるサプライチェーン断絶が大きなリスクとして顕在化してきておりますので、
樹脂もしくは天然皮革の素材・製品調達にお困りの際は、是非お声掛けください。


参考文献
「革の事典」 株式会社スタジオ タック クリエイティブ 2015年